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無価値スキル【価格表示】が覚醒したら、ガラクタで最強になった。
無価値スキル【価格表示】が覚醒したら、ガラクタで最強になった。
Author: 鍵宮ファング

第1話 ソノ価値、破格につき

last update publish date: 2026-07-02 17:48:43

 この世界では、すべてに値段がつく。

 剣も、宝石も、土地も――そして、人間にも。

 スキルの強さも、血筋も、才能も。

 すべては“価値”として数値化される。

 価値の高い者は、富と地位を得る。

 低い者は、使い潰されるだけの消耗品。

 そして一度ついた値札は、そう簡単には覆らない。

 ……少なくとも、この世界では。

「おい、クラド。手ぇ止まってるぞ」

 怒鳴り声と同時に、木箱が足元に叩きつけられた。

 中身は壊れた剣や欠けた装飾品、売り物にもならないガラクタばかりだ。

「今日中に全部仕分けしろ。どうせお前のスキルじゃ、それくらいしか役に立たねぇんだからな」

 周囲から笑いが漏れる。

 ――【価格表示かかくひょうじ】。

 それが、俺の持つスキルの名前だ。

 物の“価値”が数字で見える。ただそれだけの、どうしようもないハズレスキル。

 この世界では、スキルこそがすべてだ。

 強力な戦闘系スキルを持つ者は騎士や冒険者として名を上げる。

 生産系でも希少な能力があれば一生食いっぱぐれることはない。

 だが――俺のスキルは違う。

 見えるのは、ただの“価格”。

 それも市場での取引額程度の、なんの変哲もない数字だ。

 戦うこともできない。

 何かを生み出すこともできない。

 ただ値札が見えるだけの力に、価値なんてあるはずがない。

 だから俺は、こうして商会の雑用係に甘んじている。

 ……いや、“甘んじている”なんて言い方は格好をつけすぎか。

 実際のところは、他に行き場がないだけだ。

 一度は「使えるかもしれない」と雇われたが、結果はこの通り。

 今じゃゴミの仕分けが唯一の仕事で、給金も最低限。

 気に入らなければいつでも切り捨てられる立場だ。

 ――価値の低い人間は、使い潰される。

 それが、この世界の当たり前。

 そして俺は、その“低い側”にいる人間だった。

「……やってますよ」

 適当に返しながら、俺は視線を落とす。

 せめて、この仕事だけはこなさないと、明日食うものにも困る。

 ……そんな風に、自分に言い聞かせながら。

「おい、クラド。まだ終わってねぇのか?」

 背後から声が飛ぶ。

 返事をするより早く、木箱が足元に落とされた。中身がガチャリと音を立てる。

「ほら追加だ。暇そうだったからな」

「……見ての通り、暇ではないんですが」

 言いながらも、俺はしゃがみ込んで中身を確認する。

 壊れた剣、欠けた皿、割れた宝石の欠片。見慣れたガラクタの山だ。

「大丈夫だって。お前なら“値段見るだけ”で終わるだろ?」

 男が肩をすくめる。

「むしろ楽な仕事だよな。俺なんか重い荷物運んでんのに、お前は眺めてるだけで金がもらえる」

「それ、交換します?」

「やだね。俺はちゃんと“役に立つ側”だからなァ」

 間髪入れずに返される。

 周囲でくすりと笑いが起きた。

 別の男が、棚から適当な装飾品をひょいと投げてよこす。

「ほら、“専門家”。これいくらだ?」

 反射的に受け取り、視線を落とす。

 《真鍮しんちゅうの首飾り:35G》

「……35Gです」

「おお、正解。すげぇな、値札が読める」

 拍手の真似事がぱちぱちと鳴る。

「なぁ、それってスキルじゃなくて“目”でよくないか?」

「やめとけよ。クラドの目は“高性能”なんだ。ほら、ちゃんと数字が浮かぶんだろ?」

「それってつまり、“目の前に書いてあることを読む能力”ってことか?」

「最強じゃねぇか。俺も欲しいわ、その力」

 笑い声が広がる。

 ――慣れている。

 腹は立つが、いちいち反応しても意味はない。

 事実、俺のスキルはそういうものだ。

「で? その首飾り、買うか? 特別に30Gでいいぞ」

「値段下げてるじゃないですか」

「ほら、ちゃんと役に立ってるだろ。値切りの参考になる」

「それ、普通に交渉でいいですよね」

「お前に交渉ができると思うか?」

 即答だった。

「……思いませんね」

 また笑いが起きる。

 店主が奥から顔を出した。

「遊んでねぇで手ぇ動かせ。日が暮れるぞ」

「ほら、ボスも言ってる。値札係は忙しいんだ」

「ちゃんと全部読めよ? 一つでも見落としたら世界が終わるかもしれないからな」

「そのときはクラドが責任取ってくれるさ。“見えてたのに見逃しました”ってな」

「それ、ただの無能じゃねぇか」

 どっと笑いが弾けた。

 俺は何も言い返さず、箱の中に手を突っ込む。

 冷たい鉄。ざらついた木片。割れたガラス。

 触れるたびに、頭の中に数字が浮かぶ。

 《鉄の剣:120G》

 《欠けた皿:2G》

 《装飾片:1G》

 ――安い。

 どれも、笑えるほどに安い。

 使い道が限られていて、代わりはいくらでもいて、壊れたら捨てられるだけの存在。

 ……まるで、自分みたいだ。

「おいクラド、そっちは終わったか?」

「まだです」

「遅いな。お前のスキルなら一瞬だろ?」

「全部読むのに時間がかかるんです」

「へぇ、“読む”のに?」

「……はい、“読む”のにです」

 一瞬の沈黙。

 すぐに、また笑いが漏れる。

「頑張れよ、識字能力担当」

「読み間違えるなよ? 人生かかってるんだからな」

「もうかかってるだろ。ほら見ろ、その顔」

 軽口は止まらない。

 だが、それでも手は止めない。

 止めたところで、何も変わらない。

 ――価値の低い人間は、使い潰される。

 それが、この世界の当たり前だ。

 せめて、この山を片付ければ、今日の分のパンは手に入る。

 それで十分だ。

 それ以上を望む余裕はない。

 ……そう思っていた。

 だが、ふと手が止まる。

 指先に触れた感触が、いつもと違った。

 冷たい鉄でも、ざらついた木片でもない。

 やけに軽くて、滑らかで、指に吸いつくような感触。

 箱の中を覗くと、他のガラクタに埋もれるようにして、それはあった。

 小さな指輪だった。

 黒ずみ、泥にまみれ、装飾も潰れている。

 誰がどう見ても価値のない代物だった。

 さっきまでの流れなら、迷わず“5G以下”と切り捨てていたはずの品。

 ――なのに。なぜか、目が離れない。

 理由は分からない。ただ、胸の奥にわずかな引っかかりが残る。

 まるで、「見落とすな」とでも言われているような違和感。

 俺は無意識に、その指輪を拾い上げていた。

 指先で軽く泥を拭う。

 すると、視界の奥で、いつもの数字が浮かび上がった。

 《???:9,999,148,000G》

 ――思考が、一瞬だけ止まった。

 桁が違う。

 もう一度、見直す。

 《???:9,999,148,000G》

 ……変わらない。

 見間違いじゃない。

 こんなボロの指輪に、この額。

 あり得ない。

 まず疑ったのは、スキルの誤作動だ。

 だが――この目が狂ったことは一度だってない。

 ……なら、これは本物か?

 黒ずんだ指輪。潰れた装飾。価値なんて、どこにも見えない。

 そのはずなのに。さっきの違和感が消えない。

 ――見落とすな。

 そんな感覚だけが、妙に強く残っている。

「おい、何ぼさっとしてる」

 店主の声が飛んだ。

 ……時間はない。

 いや、考えるまでもない。

 俺は、指輪を握りしめた。

「これ、俺が引き取ります」

「あぁ? そんなゴミ、好きにしろ。どうせ捨てる予定だったんだ」

 鼻で笑われる。

 ――なら、ちょうどいい。

 誰も気づいていないんだ。この価値に。

 だからこそ、俺が取る。

 俺は初めて、この力に賭けることにした。

 ***

 その日の仕事を終えると、俺は金を握りしめたまま店を出た。

 向かう先は、裏通り。

 昼間でも薄暗く、湿った空気が肌にまとわりつく。そんな場所だ。

 石畳は汚れ、どこかで流れた水が黒く淀んでいる。

 鼻をつくのは、酒と汗。それに、わずかな腐臭。

 表通りとは別世界だ。

 ここでは、価値の低いものが押し込められている。

「見てけ見てけ! 安いよ安いよ!」

「そこの兄ちゃん、働き手ならこっちだ!」

 怒号と笑い声が入り混じる中、俺は足を止めずに進んでいく。

 視界の端に数字が浮かぶ。

 《労働奴隷:300G》

 《雑役女:120G》

 《荷運び要員:80G》

 ……安い。だが、それ以上に、どれも“その程度”だ。

 上下はあっても、誤差の範囲。

 未来を感じない、同じような数字の羅列。

 ――価値ってのは、こんなにも分かりやすいものか。

 そう思いかけた、そのときだった。

 視界の端に、ノイズのような“歪み”が走った。

 反射的に足を止め、振り返る。

 今まで見てきた数字とは、明らかに違う感覚だった。

 路地の奥。人の流れから外れた、影の中。

 そこに、一人の少女がいた。

 薄汚れた布に包まれ、地面に座り込んでいる。白銀の髪はくすみ、顔は伏せられていた。

 誰も声をかけない。値札すら、まともに付けられていない。

 ――売れ残りだ。

 そう判断した瞬間。その上に浮かんだ数字が、視界を塗り替えた。

 《???:――――G》

 一瞬、表示が乱れ――。

 《???:999,999,999,999G》

 思わず息を呑んだ。

 桁が違う。違いすぎる。

 さっきの指輪どころじゃあない。

 今まで見てきたすべてを足しても、絶対に届かない額。

「……なんだよ、これ」

 声が漏れる。

 すると少女が、ゆっくりと顔を上げた。

 灰色の瞳。感情の薄い、空っぽの目だ。

 なのに――目が離せない。

「……なんで」

 かすれた声が届く。

「なんで、そんなに見るの……?」

 問いかけというより、確認に近い声音だった。

 俺は一歩、踏み出した。

 理由は分からない。

 ただ、分かっていることが一つだけある。

 ――これは、“当たり”だ。

「……お前を買う」

 気づけば、口にしていた。

 すると、近くにいた店主がギョッとした顔でこちらを覗いてきた。

「はぁ? そいつを? 売れ残りだぞ。持ってくなら好きにしろ」

 周囲から、くすくすと笑いが漏れる。

「兄ちゃん、趣味悪いな」

「もっとマシなの選べよ」

 雑音は無視でいい。

 俺には見えているんだ。こいつの“価値”が。

「いくらだ?」

「……100Gでいい。どうせ誰も買わねぇ」

 安すぎる。が、それでいい。

 俺は迷わず金を差し出した。

 硬貨が触れ合う音が、やけに軽く響く。

 それで取引は終わりだった。

 少女の手を取る。驚くほど冷たい。

 それに、軽い。骨ばった指先が、わずかに震えている。

「立てるか」

 小さく頷く。その目が、ほんの少しだけ揺れた。

 背後で、誰かが言った。

「100Gのガラクタか」

 ――違う。

 心の中で、否定する。

 これは、俺の人生を変える“投資”だ。

「ところで君、名前は?」

「……ない」

「そうか」

 なら。

「ミリスだ」

「え……?」

「今日から、お前はミリスだ」

 少女――ミリスが、わずかに目を見開く。

 その瞬間。ほんの一瞬だけ、その瞳に光が宿った気がした。

 価値は変わる。いや――。

 ――俺が、変える。

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